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簿記を勉強すれば、モノの原価を計算することが原価計算だと理解ができると思います。しかし、企業の経理部門でどんな実務が行われるか、イメージが湧かない方も多いと思います。
この記事では、企業の原価計算担当者がどのような実務を行っているかをご紹介します。
もくじ
経理部門のなかでの原価計算の位置づけ
原価計算の機能についてはこちらの記事を参照下さい。
原価計算は商品の在庫を持つ企業にとって生命線となる経理の仕事です。
仕入れて販売するだけの企業の原価計算はシンプルで、計算のロジックをシステムで組んでしまえば簡単に結果を得ることができます。
一方、製造業にとっては非常に重要な業務になります。
- 製品の原価を下げた分だけ企業の利益が増える
- 原価は売価に反映されるのでライバル企業との競争に影響する
- 原価の低減は正確な原価計算から始まる
原価計算は、製造業にとって“生命線”と言ってもいいほど重要な仕事です。
どんなに営業部門や研究部門の発言力が強い企業だとしても、最終的には原価計算をする経理部門を無視することはできません。
製品の原価の管理が適切に行われることが、企業の利益を増やすことに繋がっていきます。
実際の職場の風景を切り取って見てみよう
日常業務(ルーチンワーク)は原価計算がベース
月次決算編(毎月行う実績の管理)
大企業は毎月決算を行っています。決算書を作る過程で原価計算も必要になります。工場で製品を作るのにいくらかかったを把握します。
製造業を行っている会社は、会社全体だけでなく、原価を細分化して部門・商品シリーズ・商品単品ごとに計算を行っているところが多いです。
- 工場の生産情報を登録する担当者や会社の決算書を作る担当者と調整し月次決算日程を決める
- 月次決算開始後、工場の生産情報登録担当者から実績の登録の完了連絡を貰い作業開始する
- システムに必要な情報がすべて揃っていることを確認し原価計算の処理ボタンを押す
- エラーなく原価計算結果が出ていることを確認する
- 原価計算結果を予算や前年と比較し分析を行い分析結果の報告を行う
業務の流れを箇条書きで書きましたが、特に難しい計算処理を人間が行うことはないんです。今は企業ではシステムが導入されているので、それを正しく使うのが仕事です。システムは複雑な設定が組み合わさっており、それらに適切な情報を登録することで始めて正しい結果が出ます。適切な登録を随所で確認していくことが重要な仕事になります。
予算編成編(年に1回の大仕事は将来の計画作り)
予算は、将来の原価計算を行うことになります。通常は翌一年の決算数値を算出します。
実績は、原価計算に必要なすべての情報が揃った状態で計算をすることができます。一方で予算は、将来の原価を計算するために、足りない情報は何らかの前提を決めることになります。
予算編成業務の最も重要なポイントは、どのような環境を想定しどのような戦略を練り、数字に反映するかということに尽きます。会社全体で情報を出し合って、意味のある予算を作っていくことが大事です。
- 4月から新年度を迎える会社は2月までに予算を作り終えることが多い
- 詳細な予算を作る会社は半年間掛けて予算編成をする
- 予算の売上はトップダウンで数字が与えられることが多い
- 予算の売上をもとに必要な経費を計算する
- 予算の経費をもとに予算の原価計算を行う
予算をどこまで細かく計算をするかは企業風土や企業における原価の重要性によって様々です。予算に時間を掛けて細かく計算するほど、会社としての戦略が明確になり将来の予測が充実するメリットがあります。一方で、予算編成作業に手間を掛け過ぎると、経理部門が作業で疲弊したり、細かな間違いが発生しやすくなるデメリットがあります。
原価試算編(随時対応する意思決定のサポート)
原価資試算は、実績や予算とは少し異なる角度から行う業務になります。
平たく言うと、原価計算のシュミレーション業務です。商品開発や製造部門の担当者などの依頼に基づいて行うことが多いです。
具体的な例を出すと、「現行品のA商品の原料Bを原料Cに置き換えたら?」「現在D工場で作っているA商品をE工場で作ったら?」といった依頼に対し、原価の変動を計算する仕事になります。
- 商品開発担当者から原価試算の依頼書を受領した
- 依頼書の内容を確認し必要であればさらに情報を聞き出す
- 依頼書の条件の通り原価計算を行い結果を算出する
- 比較対象の製品と比べどの原価がどう変わっているかを確認する
- 確認した内容をわかりやすく報告する
原価試算は、新商品の開発や設備の投資計画にも影響するほど大きな意味を持つ仕事です。適切な原価試算は経営をサポートします。
イレギュラー(トラブル)対応が腕の見せ所
月次決算や予算編成などの日常業務を行っていると、原価計算システムの計算過程でエラー(不具合)が出ることがあります。通常であればスムーズに計算が完了するものの、何らかの理由で計算がストップしてしまったり、計算はできれも結果が異常値となるようなイレギュラーです。
このときの対応が原価計算担当者の腕の見せ所です。
「なぜ計算が上手くいかなかったのか」を確認し、適切な計算ができるように対処をします。
大抵の場合、新しいことをやろうとしたときにエラーが出ます。例えば、原価計算した製品のなかに新商品があったり、新しく購入した設備の登録をしたようなときです。そのようなときは注意が必要になります。
いずれにしても、原価計算の仕組みに精通してなけらば対応は難しくなります。エラー対応のマニュアルがあり、それを読めば解決することもありますが、結局は業務の本質的な理解が必要になります。
業務改善・業務革新の宝庫から最適な方法を見つけ出す
真摯に原価管理をしようとしている企業であれば、原価計算業務はとにかく仕事量が増えがちです。単純にやりたいこと(詳細な設定や分析)を積み重ねていくと、気づけばやりきれな量の仕事になっていることがあります。
日々の業務に追われることもありますが、経理には締め切りがあり、その後は時間が空くことがあります。
そのときは、自分や周りの方の業務を改善し、それまで1時間掛かっていた仕事を10分で終わらせるような仕組みを考えます。改善した分だけ自分たちが楽になり、企業としても必要なことに時間を割くことができるようになります。
原価計算担当者として大事にしたいこと
原価計算は、一般的な経理知識に加えて、会社の事業そのものの理解や、製品の製造工程の理解が求められます。一つの会社の原価計算を極めていけば、他の人では代替の利かない貴重な人材として重宝されます。
会社の生命線として重要な役割を担う社員として、評価されることも多いポジションになりますが、真摯に数字に向き合わなければ会社に損害を与えかねないミスや見過ごしが起こりえます。
原価計算担当者は、製造現場では分からないような、企業の製造環境がどうなっているかを数字で把握する最後の砦です。
おざなりに事務処理するだけならそこに人間は必要ありません。システムで完結します。
人間だからこそできる気付きや分析が担当者の存在意義になります。