私が会社に入り、新卒で経理部に初任配属されたとき、職場で驚いたことがあります。
簿記検定試験の学習で習った仕訳と、会社で実際に会計システムに入力する仕訳は情報量がぜんぜん違うということです。
実務で扱う仕訳データは、簿記の教科書で習う仕訳に加えて、どのような情報が付加されているかを解説します。
もくじ
同じ取引に対する仕訳でも「簿記検定」と「企業会計の実務」では違いがある
大学のときに勉強していた簿記検定の知識は税理士事務所でのアルバイト経験で活きました。
アルバイト先の税理士事務所で顧問契約をしているお客さんは、小規模企業が中心でした。そのためシンプルな市販の会計ソフトを使用しており、その仕訳も簡素であまり違和感はありませんでした。
しかし、大学卒業を機にアルバイトを辞め、就職した大企業の経理部門で見た仕訳は情報量が多く、少し戸惑った覚えがあります。
しかしそれもほどなくして慣れるので、あまり心配は要りません。
では、「簿記検定」と「企業会計の実務」、それぞれの仕訳例をもって解説するので、イメージしてみて下さい。
簿記の教科書で習う仕訳はシンプル
検定試験の勉強をしているときは何も感じませんが、実務に触れてから見ると非常にシンプルです。
- チケットの本体価格は100、その消費税は10とする
- 50円はその場で前金として現金を支払い、残りは後日振込で払う
簿記の教科書で習う仕訳は、基本的には「勘定科目」と「金額」のみの情報しかありません。
では、次に大企業の会計仕訳の例を見てみましょう。
企業の会計システムで扱う仕訳は付加情報がある
大企業の会計システムに入力される仕訳を、上記と同一の取引について例示します。情報が付加されているのが分かります。
- チケットの本体価格は100、その消費税は10とする
- 50円はその場で前金として現金を支払い、残りは後日振込で払う
- チケットはトミートラベル㈱という旅行代理店を通して購入している
- 新幹線を利用するのは商品企画部の社員であり、野球用品(自社商品)についての打ち合わせを行うためである
挿入したグレーの表の情報が付加されているのが分かります。情報が多すぎてすぐに理解するのは難しいかもしれません。ここでは6つご紹介します。一つ一つ確認してきたいと思います。
勘定科目の明細
内容がより分かるように、勘定科目をより細分化し取引を具体化した情報を付記します。
取引の内容がより具体的に分かるため、経費の分析や残高の内訳を確認することができます。
単に財務諸表を作るだけであれば、「旅費交通費」とだけ分かれば十分ですが、「-国内」と付記されることでそのコストが国内出張に必要なものだと把握できるわけです。
同様に「預金」に「-A支店-普通」と明細を付記すれば、A支店の普通口座のことを指していることがわかります。このような管理をすることで、口座ごとの残高管理ができるようになります。
取引先と銀行口座の情報
企業の取引には相手が存在するため、どの企業と取引したか、どの企業に対して債権債務あるかを付記します。
どの取引先にいくら使ったのか、いくら払ってもらう必要があるのか、払う必要があるのかが確認できます。
後になって費用の管理・分析をするとき、旅費交通費の費用がどの業者に対して支払ったものかがわかります。「旅費交通費」の仕訳明細に、相手会社である「トミートラベル㈱」と付記されています。
しかし、より重要なのは、債権債務の相手先の情報を付記することです。特に債務(支払い)は、取引先の銀行口座情報をマスタ、その後の振込処理をするために必要です。
「未払金」の仕訳明細に、取引先「トミートラベル㈱」とその口座情報「トミー銀行1234567」が付記されることで、金額の支払処理をするための情報を保持することができます。
自社の取引部門
取引を表現した仕訳なかで、それぞれの勘定科目及び金額がに対しどの組織の責任で行われたかを付記します。
どの部署が何にいくら使ったのか、自部署が管理すべき債権債務がいくらあるのかを確認できます。
この仕訳の上2つを見ることで、商品開発部が旅費交通費を100使ったと分かります。また、トミートラベル㈱に60支払処理しなければならないことが分かります。
また、下2つをみることで、通常経理部門が管理する勘定科目の残高が動いているのが分かります。
この部署情報は、管理会計をするうえで非常に重要な役目を果たしています。どのような企業でも必須の入力項目と言えます。
商品分類
費用の勘定科目明細に、どのような(自社)商品に関する費用であるかを示す商品分類を付記します。
自社商品(サービス)をグルーピングして、それぞれにどのようなコストがいくらずつ掛かっているかを確認できます。
旅費交通費が野球用品のために使われたことが分かります。例えば、この会社で別にサッカー用品も扱っているとします。その場合、どちらの商品分類のためにいくら使われたかが管理できます。
商品分類は、よく企業が事業(商品分類)の管理するのに利用されており、それぞれの売上、費用、利益を把握しています。
商品分類ごとに、いくら売上があり、それに対しいくら費用をかけているのかが把握できることで、効率的に経営の舵取りをすることができるようになります。
消費税の取り扱い
勘定科目明細に、消費税の取り扱いを示す区分を付記します。
消費税を正しく仕訳処理するサポートとする以外にも、年1回の消費税申告で集計する際にも必要な情報となります。
費用のための支出をする際、消費税がかかる、かからないというのは仕訳処理するときによく悩むポイントになります。しかし、「旅費交通費-国内」に対応する消費税区分である「課税仕入10%」が自動でセットされれば、判断に悩むようなことがなくなる工夫をすることができます。
しかし、この消費税区分が仕訳明細に記載されていることで、本当助かるのは経理部門の消費税申告担当者です。予め会計データに消費税区分がセットされていれば、あとで年1回行う集計が簡単に行うことができるようになります。
キャッシュフロー計算書の取り扱い
現預金の関係する勘定科目の仕訳明細に、キャッシュフロー計算書(CF)上の取り扱いを付記します。
なぜ現預金が増えたのか、減ったのかを明らかにすることで、増減の要因を取りまとめることができます。
右下の現金の仕訳明細に、CFの取り扱いとして「経費の支払い」が記載されています。預金の減少の理由が分かるようになっています。
シンプルですが、現預金の仕訳明細に付記された要因毎に集計を行うことで、キャッシュフロー計算書が完成します。
ただし、現預金勘定が増減する度に情報を付記するのは仕訳入力者にとって手間が掛かります。
キャッシュフローの集計を楽にするか、仕訳入力を楽にするかは企業経理の方針次第です。
企業は効率的に情報を集計しています
なぜここまで企業会計では情報量が多いのかというと、2つの理由に集約されます。
- 似たような情報が複数あると扱いにくく(間違いの原因となる)、データを一元管理するため
- 会計システムの開発が成熟してきたため、多種多様なデータ集計が可能となったため
作らなければならない会計・税務に関する資料は多岐に渡り、企業の規模は大きくなればなるほど集計も手間になります。人の作業で都度つど数字を集計するのは現実的ではなく、実質不可能です。
財務会計、管理会計、そして税法から求められる要件は非常に多く、それに対応するため企業が工夫してきた結果こそが“会計データベースの充実”だと言えます。
仕訳処理に関して、企業会計の実務は情報量が多く煩雑に思えますが、経理業務全体から見ると最適化しており、効率化された結果であることをご理解頂けたと思います。
以上、「実務と簿記検定における会計仕訳の違いを図解します」でした。